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肺がんの手術を受けることになったとき患者さんはどのような思いを抱いているのか?
司川上:まず、肺がんの手術を受けることになったときのお気持ちについて教えていただけますか。
患田丸:私の場合、35年前に父を同じ肺がんで亡くしているのですが、父が闘病していたときの姿を見ているので、その当時から肺がんにはなりたくないと強く思っていました。そのため最初に肺に影が見つかり、主治医から肺がんの疑いがあるといわれたときには大きなショックを受けましたが、手術ができる段階であるということでしたので、前向きに手術に臨むしかないと考えていました。その一方では、手術をしてみたら肺がんではなかったと診断されることを強く望んでいました(図1)。
患松本:私も父を小細胞肺がんで亡くしているのですが、私の場合には自分も肺がんになることをある程度は覚悟していたところがありました。また、私も肺がんの疑いがあるといわれ、確定診断はついていない状況でしたので、手術を受けることになったときも、それまでに経験があった盲腸の手術とそれほど変わらないのではないかと少し軽く考えていました。ただ、手術日が決まってからは日増しに不安が強くなっていったことを覚えています(図1)。
司川上:手術を受けること自体にも不安があると思いますが、お二人とも肺がんの確定診断がついていなかったということですので、手術前はとくに不安が大きかったのではないでしょうか。
このような手術前に不安を抱えた患者さんとコミュニケーションを図るうえで、先生方はどのようなことに気を付けられていますか。
医岡田:われわれ外科医の立場としては、まず患者さんに十分に納得していただいたうえで安心して手術を受けていただくことが大事だと思っています。手術後の病理検査の結果をみなければ、お二人のように確定診断がつかない場合もありますし、その後の治療が必要かどうかを判断することもできないため、追加治療が必要となる可能性も含めて納得いただけるまで丁寧に説明するようにしています。
また、患者さんやご家族に不安や迷いが生じることがないように自信をもって説明し、「われわれにお任せください」という言葉をかけて、信頼関係をしっかり築くようにしています。
医駄賀:私は内科医なので、手術の詳細については外科医から説明してもらったうえで、病理検査の結果によっては追加で薬物療法が必要になる可能性があることを説明しています。説明にあたっては、ご家族がいる患者さんには必ずご家族にも同席いただくこと、外来の時間を長めにとって丁寧に説明することを心がけています。とくに不安が強いような患者さんに対しては、緩和ケアチームのスタッフにも同席いただき、必要に応じてその後もケアをしてもらうことで少しでも患者さんの不安をやわらげるようにしています。
また、患者さんは肺がんの告知によってショックを受けて、手術のことだけで気持ちに余裕がない状態であることが多いため、一度に多くの情報をお伝えすることによって混乱させてしまうことがないように気を付けています。
術後補助療法を始めるにあたって患者さんはどのような思いを抱いているのか?
司川上:手術前から手術後にかけて、何か気持ちの変化はありましたか。
患田丸:手術前は画像所見から肺がんだったとしてもステージⅠ程度ではないかと聞いていたのですが、手術後の病理検査の結果、ステージⅢの肺がんであることがわかりました。このような結果になることをまったく想像していなかったため、さらに大きなショックを受けました。また、ステージⅢというと再発率が高いので、この先それほど長く生きられないのではないかという不安で頭がいっぱいになり、身の回りの物を片付けたりもしました(図1)。
司川上:その後、術後補助療法を受けることになった経緯とそのときのお気持ちについて教えてください。
患田丸:手術後に主治医から点滴による術後補助療法についてご提案いただきました。治療については効果だけでなく副作用についてもとても丁寧にご説明いただき、治療を受けたからといって必ずしも再発を抑えられるわけではないこと、受けない場合と比べて再発を抑えることができる割合もそれほど高くないこと、また、入院が必要になることも説明していただきました。手術を受ければそれで治療は終了すると思っていたので、これからまた治療を受けることによる日常生活や家族への影響について考えると不安になりました。ただ、「今やれることはやっておきたい、治療を受けずに再発してしまったときに自分を責めるようなことや後悔はしたくない」と思い、また、家族からの後押しもあったため、迷うことなく治療を受けることに決めました(図1)。
司川上:松本さんは手術後や術後補助療法を受けることになったときにはどのようなお気持ちでしたか。
患松本:私も手術中の病理検査の結果、残念ながらステージⅠBの肺がんと診断されました。手術後は想像していた以上の痛みや息苦しさで辛かったのですが、主治医に「社会復帰が最大のリハビリ」といっていただいたので、手術から12日後には仕事に復帰しました。仕事には復帰できましたが、「いつ再発するのだろう」ということばかり考えてしまい、腰痛があれば骨転移、頭痛があれば脳転移を疑ってしまう等、不安な日々を過ごしていました。
その後、しばらくして主治医から術後補助療法について説明していただき、「どちらでもいいですよ」といわれましたが、後悔しないようにできることは全部やっておこうと心に決めていたので、治療を受けることにしました(図1)。
手術後の患者さんの気持ちを踏まえた術後補助療法を説明する際の工夫
司川上:術後補助療法について、先生方は患者さんにどのようなタイミングでどのような説明をされていますか。
医岡田:手術後の病理検査の結果によって、「術後補助療法が必要でない場合」、「経口薬による治療が必要となる場合」、「点滴による治療が必要となる場合」と患者さん個々で選択肢が異なります。そのため手術前に術後治療の可能性について詳しく説明しても患者さんは理解できないので、追加治療が必要となる可能性について手術前に簡便に説明したうえで、詳細については手術後に説明するようにしています。
術後補助療法の説明にあたっては、「手術で完全に治っている可能性も十分にありますが、少しでも再発を抑える上乗せの効果を期待しておこなう治療です。そのため治療を受けても再発する可能性はあります」といったことをお話ししています。そのうえで治療を受けるか受けないかは患者さんの希望を最優先して、受けたいといわれる場合には治療を開始するようにしています。
医駄賀:当院では手術を受けた患者さんに対して、術後補助療法を提案すべきかどうか、また、どの治療を選択すべきかについて、外科、内科、放射線腫瘍科によるカンファレンスで検討しています。
術後補助療法を提案したほうがよいと判断した患者さんには、先ほど岡田先生がおっしゃったとおり、できるだけ再発を抑えることを目標としておこなう治療だということをしっかり説明するようにしています。また、手術を受けたばかりでまだ体調が万全ではない状態で治療を開始することになり、大きな不安を感じている患者さんも多いため、治療によって発現する可能性がある副作用や日常生活への影響についてもお話しして、できるだけ不安なく治療を受けていただけるように配慮しています。