免疫療法
肺がんの免疫療法と免疫チェックポイント阻害薬:作用と副作用
免疫療法は、がん細胞による免疫の抑制を解除して、患者さん自身が持つ免疫の力を使ってがん細胞の攻撃を促す治療法です。そのうちの1つ、免疫チェックポイント阻害薬による治療は、肺がんをはじめ、多くのがん種で承認され、医療保険が適用されています。
肺がんの治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬は、非小細胞肺がんではPD-1阻害薬(抗PD-1抗体)、PD-L1阻害薬(抗PD-L1抗体)、CTLA-4阻害薬(抗CTLA-4抗体)、小細胞肺がん(限局型・進展型ともに)ではPD-L1阻害薬です。
免疫チェックポイント阻害薬による非小細胞肺がんの治療
非小細胞肺がんでは、さまざまなケースで患者さんの治療に用いられています。肺癌診療ガイドライン2024年版では、進行・再発のⅣ期の患者さんには白金(プラチナ)製剤とPD-1/PD-L1阻害薬を併用する方法だけでなく、その他の選択肢として、白金(プラチナ)製剤にPD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬の2剤を加える方法や、PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬を併用する方法、免疫チェックポイント阻害薬のみの治療法などがあります。
また、Ⅲ期の患者さんに対しても、がんが限られた範囲にとどまっていない場合で手術が適さない場合、根治を目指した治療として、根治的化学放射線療法の後にPD-L1阻害薬が最大1年間用いられます。
加えて、手術前後の補助療法として、PD-1/PD-L1阻害薬を投与する治療法もあります。
免疫チェックポイント阻害薬による小細胞肺がんの治療
限局型小細胞肺がん治療の中心は抗がん剤(化学療法)と放射線治療を併用する「化学放射線療法」です。2025年からは、再発予防を目指した維持療法として、免疫チェックポイント阻害薬であるPD-L1阻害薬による治療が加わりました。
進展型小細胞肺がんの患者さんに対しては、抗がん剤に免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療がおこなわれています。
免疫チェックポイント阻害薬のメカニズム(PD-1/PD-L1阻害薬)
ここではPD-1阻害薬、PD-L1阻害薬のメカニズムを説明します。免疫の主役ともいうべきT細胞は、がん細胞に特有のタンパク質を認識すると活性化し、そのタンパク質を発現しているがん細胞を攻撃します。一方でT細胞には免疫の働きが過剰になるのを抑えるために、PD-1という受容体が備わっており、そこにPD-L1という物質が結合すると、T細胞の活性は低下し、がん細胞への攻撃をやめてしまいます。がん細胞の中にはPD-L1を発現して、T細胞の攻撃から逃避して生き延びるものができてきます。PD-1阻害薬はT細胞に発現したPD-1に、PD-L1阻害薬はがん細胞に発現したPD-L1に直接結合し、がん細胞が免疫によって守られるのを阻害します。
このようにPD-1阻害薬とPD-L1阻害薬はT細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1の結合を防ぎ、T細胞の活性(攻撃する力)を維持し、がん細胞を排除しようとする薬剤です。

免疫チェックポイント阻害薬で広がる小細胞肺がんの治療選択肢
進展型小細胞肺がんに対しては2019年8月から、限局型小細胞肺がんに対しては2025年3月から、一部の免疫チェックポイント阻害薬が保険適用になりました。
進展型小細胞肺がんの場合、免疫チェックポイント阻害薬は、従来から使われている抗がん剤と組み合わせて、点滴注射で投与します。限局型小細胞肺がんでは、化学放射線療法で効果が得られた患者さんに、治療後の追加療法として単独で用いられます。
小細胞肺がんの治療に用いることができる分子標的薬がないため、これまでの薬物療法は抗がん剤のみでおこなわれてきましたが、進展型に続いて限局型も免疫チェックポイント阻害薬を用いることができるようになり、患者さんの治療選択肢が増えました。
ただ、体調などによって免疫チェックポイント阻害薬が使用できない場合もありますので、主治医とよく相談しましょう。
免疫療法で起きやすい副作用
本来、人間の免疫の働きは、弱すぎないよう、そして強すぎないように体内で制御されています。免疫療法は、がん患者さんの弱まっている免疫の働きを高めてがん細胞を攻撃させるという治療法ですが、免疫の働きを高め過ぎてしまうと、自身の細胞や臓器を攻撃してしまうことがあり、副作用として現れる可能性があります。これを免疫関連副作用といいます。
主な免疫関連副作用としては、皮疹などの皮膚障害、肺炎などの肺障害、下痢・腸炎などの胃腸障害、重症筋無力症・筋炎などの神経障害、甲状腺機能低下症といった内分泌障害などがあります。
免疫関連副作用が起きたときにはその程度によって免疫療法薬の投与を中止します。副作用の症状をやわらげるために、ステロイド剤など、免疫を逆に抑える薬を使用することもあります。
気になる症状が出た場合は自己判断せずに、主治医や看護師、薬剤師に相談しましょう。
参考:
・国立がん研究センターがん情報サービス
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 金原出版株式会社
監修:日本医科大学 呼吸器内科
教授 笠原寿郎先生
2022年12月掲載/2025年4月更新