根治的化学放射線療法とは

抗がん剤治療(化学療法)の役割

抗がん剤とは

抗がん剤治療(化学療法)は、「細胞障害性抗がん剤」という種類の薬を使う治療のことです。細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで、がん細胞の増殖を抑える治療法です。作用の異なる薬剤を組み合わせた併用療法や、単剤療法等、患者さんの状態や病気の進行具合によって使用される薬剤は異なります。外科手術や放射線治療が肺そのものに対しておこなわれる「局所療法」であるのに対し、抗がん剤治療は肺から離れた臓器にも広がっているかもしれないがん細胞を消滅させる目的でおこなわれる「全身療法」です。
非小細胞肺がんのうち手術が適さない場合や、進展型小細胞肺がんについては抗がん剤治療が、限局型小細胞肺がんに対しては抗がん剤治療と放射線治療を併用する化学放射線療法が標準治療となります。

【標準治療(標準的治療)とは】
その時点において、科学的根拠に基づいて最も効果的とされ、多くの患者さんにおこなわれることが推奨される治療のこと。

なお、抗がん剤治療は抗がん剤単剤、もしくは組み合わせで用いられます。現在は、抗がん剤に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせて治療することもあります。

抗がん剤と副作用

・非小細胞肺がんに対する抗がん剤治療

Ⅱ~Ⅲ期では、再発や転移を予防する目的で、手術後に抗がん剤による治療をおこなうことがあります。また、転移を防ぐ目的に加えて、手術での完全切除率(がんを完全に切除できる確率)を高める目的で、手術前に抗がん剤治療がおこなわれる場合もあります。

Ⅲ期で手術は適さないが、放射線治療の効果が期待できる場合に、抗がん剤治療と放射線治療とを併用する「化学放射線療法」をおこなうことがあります。

Ⅳ期では薬物療法が治療の中心となり、患者さんのがん細胞の遺伝子変異や性質、全身状態によって分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬・抗がん剤を単独もしくは組み合わせる方法が選択されます(肺がんの治療選択:肺がんの治療は種類と進行度によって変わる)。

・小細胞肺がんに対する抗がん剤治療

小細胞肺がん(限局型小細胞肺がん・進展型小細胞肺がん)は、手術ができる早期のうちに見つかることが少ないため、抗がん剤治療が治療の中心です。

【限局型小細胞肺がん】

抗がん剤治療と放射線治療を併用する「化学放射線療法」が標準治療です。患者さんの身体の状態が耐えうるようであれば、より治療効果が高い「化学放射線療法」(抗がん剤の投与と放射線治療を組み合わせる方法)をできるだけ早い時期におこないます。限局型小細胞肺がんに対する化学放射線療法の効果は高く、80~90%の患者さんのがんが縮小し、約半数でがんが完全に消失します。
治療後は転移・再発予防のための追加治療として、2025年春からは免疫チェックポイント阻害薬(PD-L1阻害薬)が選択できるようになりました。また、化学放射線療法によりがんがほぼ消失したと判断された患者さんに対しては、脳への転移を防ぐために、脳全体への放射線治療(予防的全脳照射)もおこなわれます。ごく早期の限局型小細胞肺がんで、手術で取りきれると判断された場合は、手術後に再発予防のための抗がん剤治療をおこないます。現在では、白金(プラチナ)製剤を含む複数の薬剤を用いることが標準治療となっています。

【進展型小細胞肺がん】

薬物療法が標準治療です。従来は抗がん剤治療のみでしたが、2019年から進展型小細胞肺がんの患者さんについては抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が加わりました。

・抗がん剤治療で起こりやすい副作用

抗がん剤による副作用の種類や時期、程度は、使うお薬の種類によって、また患者さんによって異なります。
一般によくみられる副作用は、吐き気・嘔吐、食欲低下、口内炎、下痢、便秘、全身倦怠感、末梢神経障害(手足のしびれ)、脱毛等です。このような自分でわかる副作用の他に、検査をしないとわからない副作用もあります。これらの副作用には白血球減少、貧血、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害、間質性肺炎等があります。近年、吐き気や白血球低下等の副作用を軽くする薬剤が発達してきました。副作用が現れる時期はある程度わかっているため、状況に応じてこれらの薬剤を使用することで症状をやわらげることができます。

しかし、副作用の重症度には個人差があり、まれに命にかかわる副作用がみられることもあります。副作用対策もがんと同じく早期発見・早期治療が大切です。早めに対策を取ることで、治療の中止を防ぐこともできます。主治医や薬剤師から予測される副作用について説明を受け、注意すべき症状が現れた場合は速やかに病院に連絡するようにしましょう。

・抗がん剤治療で起こりやすい副作用

抗がん剤治療で起こりやすい副作用

参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2024年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 金原出版株式会社
・国立がん研究センターがん情報サービス「薬物療法もっと詳しく」

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 教授 笠原寿郎先生