専門家に尋ねる『サポート制度』
高額療養費制度
がんの治療は高額になることが多く、その3割ともなれば大変な負担となります。そこで、患者さんの年齢や収入に応じて上限額を設定し、それ以上かかった場合は払い戻されるようになっています。それが「高額療養費制度」です。
監修:近藤明美先生
近藤社会保険労務士事務所/特定社会保険労務士 キャリアコンサルタント。
(社)CSRプロジェクト(Cancer Survivors Recruiting)にも参画し、長年にわたって、がん経験者の就労相談に取り組んでいる。
高額になった月の医療費の一部を払い戻してくれる制度
国民健康保険など公的医療保険に入っていれば、病気をした時には実際にかかった費用の3割※1を負担すればよいことになっています。たとえば1万円の医療費がかかっても、実際窓口で支払う「自己負担額」は3,000円※2です。しかし、がんの治療は高額になることが多く、その3割ともなれば大きな負担になります。そこで、患者さんの年齢や収入に応じて「自己負担限度額」を設定し、それを超えた分が払い戻される仕組みになっています。この制度を「高額療養費制度」といいます。
- ※1 小学校入学以後69歳以下、または70歳以上の現役並み所得者の場合
- ※2 3割負担の場合
自己負担限度額は、年齢および所得状況等により設定されています。
- 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)
- 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)
たとえば、48歳で月収44万円の場合、上限金額は8万7,430円となります。医療費が月に100万円かかったとして窓口で30万円を支払った場合、あとから21万2,570円が現金で給付されます。
- 厚生労働省:厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)
家族で&複数の病気でも合算して払い戻しが受けられる
■世帯合算
1人で1つの医療機関の窓口負担では上限額を超えていなくても、①他の医療機関での受診、②同じ医療保険に加入している家族の受診、について、窓口での自己負担額を合算することができます。これらの合算が上限額を超えると、高額療養費制度の対象になります。
ただし、69歳以下の場合、合算できるのは月の自己負担額が2万1,000円以上の受診です。
たとえば、家族内で2名、それぞれが6万円の自己負担額を支払った場合、1人ひとりでみれば高額療養費制度の対象にならなくても、合算すれば12万円となり、対象となるケースがあります。
なお、病院が異なっていたり、同じ病院内で複数の科を受診していたりする場合でも、病院ごと、入院・外来ごとに合算して月2万1,000円以上となれば、高額療養費制度の対象にすることができます。ただし、歯科については、医科とは別に単独で高額療養費制度の対象となります。
世帯合算の例(69歳以下の場合)
- 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)より作成
■多数回該当
1年間で3回以上、高額療養費制度の払い戻しの対象になった場合、4回目からさらに自己負担の限度額が引き下げられることになります。
- 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)
- 厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)
たとえば69歳以下で年収が約370〜770万円以下の場合、通常の自己負担限度額は8万7,430円ですが、4回目からは4万4,400円となります。
手持ちの現金が厳しい場合、賢く利用したい
■限度額適用認定証
いくら戻ってくるとはいえ、数十万円にもなる医療費を窓口で支払うのは厳しいもの。そこで、治療を受ける前に、加入している医療保険に「限度額適用認定証」を申請しましょう。これを提示すると、窓口での支払い金額を上限額にまで下げることができます。
■高額医療費貸付制度
限度額適用認定証がない場合など、医療費の支払いが困難なときには、無利息の「高額医療費貸付制度」を利用できる場合があります。高額療養費の支給は診療月から3ヵ月以上後になるため、それを待っている間、支払見込額の8割(協会けんぽの場合)までを無利子で借りることが可能です。
制度の利用ができるかどうか、貸付金の水準はどのくらいかは、ご加入の医療保険によって異なるので、問い合わせてみてください。
治療が長引いた場合は、年単位でも
■高額医療・高額介護合算療養費制度
高額療養費制度を利用していても1年分を合算すると負担が大きくなることがあります。その救済措置として、年単位で上限額を設定し、それを超えた分が払い戻される制度が設けられています。世帯内の同一の医療保険の加入者について、1年間の医療保険と介護保険の自己負担を合計し、基準額を超えた金額を支給する制度です。かなり複雑な基準や計算式があるので、専門家に相談しておくと安心です。
2019年4月掲載/2022年4月更新