ソトイコ!
ゆるっと「街ブラ」 Vol.3<実践編②>
歩き慣れた普段の街で、好奇心の赴くままに散歩を楽しむ “街ブラ”。 Vol.3の<実践編②>は、街に出て、地域に暮らす人たちとふれあいを楽しみます。とはいえ、知らない人に話しかけるのはなかなか難しいもの。そこで、絵地図師・散歩屋として活躍中のミエ先生こと高橋美江さんに会話を楽しむコツを教えていただきました。
近所の商店街を「街ブラ」して人とふれあう
今回の街ブラスポットは、古き良き昭和の面影が残る、東京の下町にある商店街。「○○屋さん」と呼ばれる個人商店や専門店が路地に沿ってゆるゆると続きます。奥の調理場からいい匂いが流れてきたり、味のある手描きポスターがあったり。魅力的なお店は、いずれもミエ先生の行きつけのお店ばかり。
待ち合わせは「三島屋⿂店」。開店前からミエ先生とおかみさんが今日仕入れる魚の話で盛り上がっています。
そんなミエ先生に、「“人とふれあう”街ブラ」の魅力について伺いました。
「人と話すと脳は活性化するし、気分も前向きになりますよね。それもお店の人なら、ほどよい緊張感もあって気分もしゃきっとする。だから、私は仕事で忙しかったりすると、商店街に出かけます。
患者さんの場合、ときには『気がふさいで、人と話す気になれない』ということもあるでしょう。でも、そんなときにこそ商店街に出かけてみてください。
お店なら余計なしがらみもないので、気軽に『人と人とのふれあい』を楽しめるでしょう。あちらも商売ですから、気安く応えてくれると思いますよ」
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地元で愛されるお店は地元の情報がいっぱい! 話しかけやすいのも個人商店だからこそ。
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最近、買い物はほとんどスーパーやショッピングセンター、通販などで済ませるという方も増えています。確かに便利ですが、人と話すことはほとんどなく、通販ともなると外出の必要すらありません。
「せっかく買い物をするなら、外出しましょうよ。さらに商店街に出かければ、人とも話すし、いろんなお店を見て回りたくなる。いい運動にもなって、一石二鳥ですよ」
地域に愛される個人商店に新しい出会いと発見が!
三島屋⿂店のおかみさんに「後でまた来ます」とお伝えして、いざ街ブラ出発! まずミエ先生が立ち寄ったのは、店頭にずらりと商品が並んだ「さとみや⾖腐店」。「絹ごし」、「木綿」はもちろん、おぼろ豆腐やがんもどきなど種類も豊富。種類の多さに一瞬戸惑っていると、店のご主人が出てきました。
「毎度、ありがとうございます。今日は、北海道産の大豆を使った絹豆腐とおぼろ豆腐がおすすめです。曜日限定かつ数量限定だから、すぐなくなっちゃうんですよ。とにかく甘くておいしいから食べてみて!」
そんなご主人に促され、ミエ先生も「どうやって食べるの」と調理法をたずねたりしていました。ちょっとした一言から、会話のキャッチボールが始まります。
さらに「これ、かわいいわね!」とお店の手描きポスターについてふれると、「そうでしょう!」と近所のお子さんが描いてくれたことを誇らしげに話してくれました。微笑ましいエピソードにほっこり。
店頭のポスターは近所の子どもの手描きだそう。そんなことも話題のきっかけに。
「おしゃべりを楽しむなら、個人商店のほうがおすすめです。古くからやっている店にはいろんな情報が集まってますし、対応も上手。聞けば聞くほどいろんなお話が聞けて楽しいですよ。新しい店も地域密着でお客さんを増やしたいわけですから、話したいと思っているはず。商品や原材料、食べ方、ディスプレイなど、店頭にあるものに目をやれば、話題にも事欠かないでしょう。今日の天気はもちろん、『商売はどうですか?』とか、景気を話題にしてもいいんです」
さらに、店構えがオープンな雰囲気のところ、他のお客さんとのやりとりが自然なところ、そして地域のイベントなどのポスターが貼ってあるところなどを選ぶと、気持ち良く会話が楽しめる場合が多いのだとか。
「地元のお店の人って、近所だけど知り合いではない。だからこそ、プライベートのことも詮索されないし、言う必要もないでしょう。だから、親しみやすくとも、ほどよい距離感で仲良くできる。それも魅力の1つでしょうね」
「行きつけの店」をつくることで新しい居場所ができる
お店の人と仲良くなると、いろいろとうれしいことがたくさん。たとえば、好みのものをとっておいてくれたり、おすすめ情報を教えてくれたりなどなど。家庭でも仕事場でもなく、第三のくつろぎの場ができると気持ちに余裕が生まれます。
そこで、ぜひ街ブラで挑戦していただきたいのが、近所に“行きつけ”の飲食店をつくること。
「料理の評判をネットで調べていく方が多いと思いますが、行きつけの店にするには雰囲気も大切。ぜひ、自分好みのお店を探しましょう」
そこで先生の行きつけとして案内いただいたのが、カジュアルな雰囲気のイタリアンレストラン「トラットリア・ラ・パデッラ」。
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一番会話をしやすいのは、オーダーやサーブのとき。料理のことだけでなく、天気のことや地域のことなど、気軽に話をしてみましょう。
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「私が気に入っているのは、まず第一にオーナーさんの温かくおおらかな人柄です。親しみやすいけれど、押し付けがましくない。そしてお店にもそんなオーナーさんの人柄が表れています。落ち着いた壁側の席と明るい窓側の席と気分に合わせて選べるし、会話を楽しめるカウンター席があるのもいいですね」
そして、商店のときと同様、地域のイベントのポスターは地域に開かれたお店であることの証だといいます。他にもコルクのオブジェや黒板に書かれたその日のおすすめメニューなど、会話の糸口になりそうなものがいろいろ。
「お店の様子は行ってみないとわからないこともあるので、まずは奥さんや旦那さん、お友達などと一緒に様子を見に行くのもいいかもしれないですね」
ただ地域密着型のお店でも、常連さんばかり集まるお店は、初めての方にはハードルが高いかもしれません。
「ここのオーナーさんは地元の出ではないし、他からもお客さんが来る。いろんな人が集まるお店だから、初めてでも気兼ねなく会話を楽しめるんです。そんなお店を探してみるとよいでしょう」
お店の人との会話は節度が大事
お店の人との会話を楽しむには、フラットな姿勢が大切です。仕事でどんな役職にあっても、お金を払って食べる側であっても、人と人とは対等な関係。お店の人が忙しいときなどに強引に話しかけるのはNG、プライベートを詮索するのも好ましくありません。
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お店の人と話すのにうってつけなのがカウンター席。ただし、シェフに話す余裕があるかの確認はお忘れなく。
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「相手にオープンになってもらうには、自分からオープンになることが大切です。だから、ついつい話し込んでしまうこともありますが、近づきすぎて困らせてしまうのはよくありません。お店の人なら、まったく知らない人に話しかけるより気持ちよく返してもらえますが、節度をもって振る舞うのが大人としてスマートです」
確かに忙しそうなときに話しかけるのは困りもの。ピーク時はまさに戦場というときもあります。会話を楽しむには、ランチタイムの終わり頃やハッピーアワーと呼ばれる夕方早めの時間が狙い目です。
「それでもフロアに出て長時間話し込むのは難しいでしょう。だから、私はお店の人と話したいときは、カウンター席を選びます。一人でも寂しくないし、オーナーさんとはもちろん、隣り合わせた人とも仲良くなることもできますから」
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お店の人はどう思っている?
おいしいものの話は大好きなので、調理法や食材のことはどんどん聞いてほしいですし、リクエストもしてほしいです。好みから、次のサービスやメニューを組み立てることもあります。営業的にお店側もまたお客様のことを知りたいと思っているんです。地域のこともぜひ情報交換したいですね。
ただ、火や油を扱うときや繊細な仕事をするときは、「ちょっとお待ちください」とお話を中断することもあります。おいしい料理をタイミングよくお作りするためなので、どうぞお許しください。お帰りの際には、料理の感想を一言加えていただけるとうれしいです。
「なかなか話しかけにくい」という方には小物ワザ
商店街の人はほとんどがお話好き! しかし、「話しかけないでオーラ」にも敏感だといいます。なかなか話しかけてもらえない、会話が続かないという方は、知らぬうちにそのオーラを出してしまっているのかも?
ミエ先生曰く、そんな方でも「つい話しかけられてしまう人」になる秘策があります。それは話題のきっかけになるような小物をもっていること。
「私がよく話しかけられるのは、カメラをもっているとき。第二回の街ブラのときもそうでしたが、ちょっといいカメラをもっていると、何を撮っているのか、どんなレンズなのか、話しかけられることが多いです」
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会話の糸口になるグッズがあれば、自分から話しかける必要なし! これは先生の最新“話しかけられグッズ”、焼き鳥を抜く専用の「焼き鳥用フォーク」
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そして、最新の話しかけられグッズは「焼鳥用フォーク」!
「串焼き系のものはなんでもスマートに取り外すことができるんです。これを使っていると、必ずといっていいほど話しかけられますね」
他にもこんなものがミエ先生の「話題のきっかけ小物」として活躍しているそう。
●週刊誌:
話題のニュースが掲載されていると、話しかけられ率高し。
●近所のお店で購入したもの:
味などの情報をたずねられます。
●マイ箸:
フォークとナイフの店でも登場させて「箸の人」とおぼえてもらいます。
●スマホに入っている写真:
家族やペットの写真は話題づくりの定番。ぱっと見せられるよう、整理しておきましょう。
「共通の話題を探すのは苦手という方でも、物をきっかけにすれば、意外に会話が弾むもの。自分の話題でひとしきり盛り上がったら、相手のモノ・コトにも注目して。珍しい調理器具や店に飾られている写真など、なんでもいいので興味をもったことを聞いてみましょう」
病気になって、感受性が強くなったという方もいます。買い物や食事という、お店の人との何気ないやり取りの中でも、きっと新しい感動や気付きがあるはず。そして、前向きに生きるエネルギーの源である好奇心が湧いてくるでしょう。いつもの日常から、一歩踏み出して“街ブラ”を楽しんでみてはいかがでしょうか。
2018年11月掲載