ソトイコ!
ゆるっと俳句散歩 Vol.3<応用編>
3回目となる今回のテーマは、複数の人が集まって俳句を作り、批評し合う「句会」。俳句雑誌『鷹』の編集長である高柳克弘先生が主催する句会に参加して、句会を楽しむポイントを伺いました。
年齢や立場を問わず、誰でも参加できる楽しい勉強の場「句会」
高柳先生が句会を開催するとお聞きし、今回は句会の様子を紹介します。句会では、詠んだ俳句を他の人に見てもらったり、反対に他の人が詠んだ俳句を批評したりするそうです。でも、これまで句会に参加したことは全くありません。そもそも句会とはどのようなものなのか、高柳先生に伺いました。
「俳句を作るうえで、句会は大切な勉強の場です。俳句を趣味とする仲間が集まり、ただ俳句を作るだけでなく、俳句を見る目を養うために、鑑賞や批評も行います。俳句は絵や写真と同じように1人で楽しむこともできますが、詠んだ俳句が相手に伝わるかどうかを、自分自身で判断することは難しいものです。そのため、俳句を人に見てもらって、良い俳句なのか良くない俳句なのかを確かめる場所が必要です。それが句会です」と高柳先生。
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現在は、テレビ番組などで俳句が取り上げられる機会が増え、喫茶店から公民館、カルチャーセンターまで、いたるところでさまざまな句会が開かれています。参加者の年齢や職業もさまざまで、老若男女が楽しんで句会に参加しています。
「最近は仕事をしている社会人のために、平日の夜間や土日祝日に開催する句会も増えています。まずは、インターネットなどで興味のある句会を探し、句会の雰囲気を味わった上で、自分に合った句会に参加するのも良いでしょう」
句会には参加したいけど、上手に詠めなかったらどうしよう、失敗しないか不安、という人も多いかもしれません。初心者でも参加できるのでしょうか。
「そんなに心配しなくても大丈夫です。むしろ、ほとんどの句会では、新しいものの見方や感性を取り入れるために、初心者の方を歓迎しています。初心者や上級者、若者、年配の方、レベルや年齢問わずさまざまな人たちが入り交じった句会ほど楽しい句会はないと思います」
いよいよ句会がスタート!5つのステップでわかる句会
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今回、句会が開催されたのは東京都武蔵野市のとある公会堂。20代から60代まで幅広い年齢層の方が集まりました。句会は既に発表された作品について意見を述べたり、鑑賞したりする場ではありません。その場でお題が出て、その会場で俳句を作るとあって、少し緊張気味の参加者も見受けられます。
今回の句会は「当季雑詠(とうきざつえい)」が2句、「席題(せきだい)」が1句で行われました。当季雑詠はあらかじめ出される宿題のようなもので、その季節の俳句であれば題材は問わないのに対して、席題はその場でお題が出されるため、何がお題になるかは参加するまでわかりません。
初めて句会に参加する方は、即興的に作らなければならない席題なんて絶対にできないと思うかもしれませんが、意外にも良い俳句が生まれるとのこと。適度な緊張感がいい刺激になるのかもしれません。
早速、先生からお題が出されました。今回のお題は「汗」です。
「『汗』も立派な夏の季語です。汗は暑いときや運動したときに体温調節のためにかくもの。ひどく恥ずかしかったりしたときに出る『冷や汗』や、緊張しているときに出る『あぶら汗』もありますが、本来の季語の使い方とは異なります。『汗』という言葉を使って、実際に俳句を作ってみましょう。1句につき10分から15分程度の制限時間が目安です」
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今回開催した句会の参加者は20〜60代の方。さまざまな年齢の人と触れ合えるのも句会の魅力です。
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指を折りながら五・七・五の音数に言葉を当てはめる参加者も。どんな俳句ができあがるのでしょうか。
句会の進め方はいくつかありますが、一般的に、投句(出句)・清記・選句・披講(点盛り)・講評の5つのステップで進められるようです。
ステップ1:投句(出句)
「俳句ができあがったら、配られた3枚の短冊に、当季雑詠の2句と席題の1句を書き写してください。このステップは、俳句を場に投げる(提出する)ことから、投句(出句)といわれています。読みやすい字でていねいに書き写しましょう」
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俳句を短冊に書き写して提出。参加者から集められた短冊は、誰の俳句かわからないようによく混ぜます。
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今回、句会が開催されたのは東京都武蔵野市のとある公会堂。20代から60代まで幅広い年齢層の方が集まりました。句会は既に発表された作品について意見を述べたり、鑑賞したりする場ではありません。その場でお題が出て、その会場で俳句を作るとあって、少し緊張気味の参加者も見受けられます。
「事前に作者の名前がわかってしまうと、参加者が余計な気を遣って、俳句の良し悪しだけで意見を言いづらくなってしまいます。そのため、句会では作者が誰なのかを極力わからないようにします」
ステップ2:清記
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清記用紙に清記者名と清記番号を記入。みんな書き誤らないように真剣な様子で書き写します。清記したことで、誰が詠んだ俳句なのか全くわからなくなりました。
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「次に『清記用紙』を配ります。清記とは清書のことです。全員で手分けして、先ほどの短冊に書かれた俳句を、清記用紙に書き写しましょう。ポイントは、短冊に書いてある通りに書き写すこと。誤字・脱字がないように気をつけることはもちろん大切ですが、誤りがあるからといって、清記者が勝手に書き直してもいけません」
ステップ3:選句
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すべての句にじっくり目を通して吟味。自分が良いと思った句や好きな句をチェックして、『選句用紙』に記入します。
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「先ほど書き写した『清記用紙』には、1枚につき3句書かれています。その中から好きな句を1句選んでメモ帳などに書き留めておきましょう。書き終えたら隣の人に清記用紙を回してください。全ての俳句の中から1人3句を選んで『選句用紙』に記入しますが、その3句を選ぶ前の予備の俳句を選びます」
俳句を作るのも難しそうだけど、人の俳句を選ぶのはもっと難しそうな気がします。選ぶポイントはあるのでしょうか。
「選ぶ基準はいくつかありますが、はじめは『表現がおもしろい』『共感できる』『情景が思い浮かぶ』など、良いと感じた俳句を主観で選んで問題ありません。ただ、句会ではお互いが相手の俳句に対して意見を言い合うため、自分が作った俳句は選ばないようにしましょう」
ステップ4:披講(点盛り)
選句が終わったところで、次は「披講(ひこう)」が行われます。披講とは、各自が選んだ俳句を読み上げる発表の場のこと。
「みなさんはただ聞くだけではなく、読み上げられた俳句が手元の清記用紙にあったら、その俳句の上に『○』などのチェックを入れてください。
この作業は『点盛り』ともいわれ、披講が終わった段階で、どの俳句に何点入ったかがひと目でわかります。この印は『合点(がってん)』とも言われ、納得するという意味で使われる『合点がいく』の由来にもなっています。つまり、合点が多い俳句は、多くの人が納得した良い俳句の目安になります。句会にはこうしたゲーム性もあるので、それを楽しみに参加するのも良いですね」
ステップ5:講評
披講が終わったら、高柳先生と参加者全員で選句作品を批評します。参加者からの率直な感想や批評、疑問はもちろん、俳句に対する考え方や俳句をめぐるエピソードなどの話に発展することも。自分が詠んだ俳句に対するコメントだけでなく、他の人が詠んだ俳句やその俳句に対するコメントにも耳を傾けることが大切です。
主催者・参加者全員でお互いの俳句を批評
ここからは、高柳先生が選んだ入選作品と特選作品を中心に、作品のどこが良かったのか、参加者同士で批評し合いました。どんな意見が飛び出すのか楽しみです!
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「今回句会を開催しているここ井の頭を題材にした俳句ですね。普段人通りが多い井の頭も、暑さのせいで人通りが少ないという意外性を詠んだおもしろい俳句です。
このように、この場所だからこそ、この仲間と一緒だからこそ、生まれる俳句があります。こうした偶然の出会いを大切にすることで、俳句の表現がよりいっそう生き生きとしたものに変わります」(高柳先生)
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「連用形の『喋りかけ』で終わることで、『立呑み』の気取らなさ、この2人の親しげな関係性が、より際立つ俳句です。変に力が入っていないところが良いと思います」(若之さん)
「本来は『立呑みで汗をかいている人の背中に声をかける』ことを詠んだ俳句ですが、『汗』というひと言で省略しているのが上手だと思いました。そのため、や・かな・けりといった切れ字を使っていないのにもかかわらず、俳句自体にキレを感じます」(みおさん)
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「『汗をかくほど酒うまし』という表現で、父親の性格をストレートに言い当てた俳句。この俳句からは、どんな仕事をしている父親なのかはわかりませんが、きっと仕事に打ち込む人だったのでしょう。作者は今は亡き父親を偲んで詠んだのかもしれません」(高柳先生)
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「翼竜とは、恐竜と同じ時代に生きた翼を持つ爬虫類のこと。かつて、自由に飛び回っていた翼竜のことを忘れている空と、同じく翼竜のことを忘れている人間(作者)とを対比させることで、スケールの大きさを感じる作品になっていると思いました」(正人さん)
「本来、空は何かを記憶したり、忘れたりする存在ではありません。ですが、空を主語に置くことで、一気に詩的になりましたね。おそらく、作者の心の中では翼竜が飛んでいる空を見上げているのではないでしょうか。汗を通して、太古の空と現代の空を結びつけたおもしろい俳句だと思います」(高柳先生)
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「外回りをしている営業担当や、部活帰りの高校生が袖で汗を拭う光景が想像できました。確かに半袖で額の汗を拭おうとすると、腕が高く上がります。こうした細かい動作や描写に着目するのが、俳句的なものの捉え方のような気がします」(道喜さん)
「『腕高く』がこの俳句の躍動感を演出しています。そう考えると、『袖足らず』を例えば『袖をもて』など、別の言葉に置き換えてもいいように思います」(若之さん)
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「若之さんが言うように、『袖足らず』を使うと、袖が足りないから腕が高くなる、という説明的な俳句になってしまうかもしれませんね。俳句は詩の1ジャンルであることを踏まえると、『こうだから、こうなる』などと論理立てない方が、より俳句らしくなります」(高柳先生)
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最後に、今回の句会で最も多くの点を集めた俳句を紹介します。やはり高柳先生の俳句でした! 高柳先生の俳句を詠むと、「西日中」という季語以外は、それほど難しい表現を使っていないのに、生き生きとした躍動感が感じられます。
「『逃げて逃げて逃げて』の言葉のリズムから、作者が西日から逃げている様子がありありと伝わります」(勇樹さん)
「『逃げて』という一つの言葉をくり返し使った俳句はこれまで見たことがありませんでした」(貴宏さん)
病と向き合いながら、「新しい自分」を発見するきっかけとしての句会
このように、句会では主催者や参加者が分け隔てなく、この表現がいい、この言い回しを直した方がいいと、本音で意見を交わします。
「人の意見を聞いて、時には『そういった季語もあるんだ』『そういう捉え方もできるんだ』と気づかされることもあるでしょう。句会の醍醐味は、今まで出会ったことがない年代や職業の方と親睦を深めることで、今まで知らなかった言葉や表現に気づくこと。また、相手の考え方や生き方、価値観に触れることで感性が磨かれ、刺激を受けることにあります。句会の楽しみとは、良い俳句を作ること以上に、これまでにないものの見方や新しい自分に出会うことにあるのかもしれません」
肺がん治療中の場合、句会に参加することが難しいという人も多いでしょう。そんなときはどうすれば良いでしょうか。
「最近は句会に参加できない人のために、インターネットを通じて句会を行う『ネット句会』『メール句会』というものがあります。参加条件はお題の俳句を作ることだけ。他には何も必要ありません。気軽に参加できるのが特長です。病気と向き合いながらも、こういった場を利用して、新しい自分を探すきっかけに役立ててほしいです」
2018年9月掲載