ソトイコ!
ゆるっと俳句散歩 Vol.1<基礎編>
四季折々の美しい自然を楽しむ俳句。日本語やことばの美しさを再発見できる趣味としても注目を集めています。1回目となる今回は、<基礎編>として、俳人であり、俳誌「鷹」の編集長である高柳克弘先生に、俳句の楽しみ方を伺いました。
ものの見方をポジティブに変えていく俳句の魅力
最近、テレビのバラエティ番組で「俳句」が取り上げられるようになって、俳句に興味を持つ方が増えています。出演者が意外な才能を発揮する様子や、専門家による添削を見て、「俳句を始めたい」「自分でも作れそう」と感じている方もいるかもしれません。俳句は、私たちが普段の生活の中で目にするものや、耳にすることばなどを題材にすることも多く、専門的な知識がなくても、特別な季語を知らなくても始められます。
俳句を始めるきっかけは、人によってさまざまでしょう。私の場合は、好きな作家が俳句を詠んでいるのを知り、軽い気持ちで俳句を始めました。当時は大学生でしたが、大学とアルバイト先、自宅の往復で生活が単調になっていました。ところが、いざ俳句を始めてみると、それまであまり気にしなかった季節の移り変わりや、道端に落ちているものに面白さを見出している自分に気づいたのです。普段、目に留めなかったものや、本来は「よくない」こととされている情景であっても、面白く美しく捉えるのが俳句です。
俳人として有名な正岡子規は、結核を患っていましたが、そんな自分自身をホトトギスに例え、俳句を生きる糧にしていました。病気と向き合いながらも、俳句を通して新しい自分、新しいものの見方を身につけていったのです。私は、俳句には、ものの見方をポジティブなものに変えていく不思議な力が宿っていると考えています。
監修:高柳克弘先生
俳人。俳人協会、日本文藝家協会会員。俳誌「鷹」編集長。これまでに数々の賞を受賞し、現在は「NHK俳句」、読売新聞夕刊「KODOMO俳句」の選者を担当。
これから俳句を始めるための準備
これから俳句を始める方に、最初におすすめしているのは、歳時記を読んでみていただくことです。四季を表す「季語」を集めたものが歳時記です。俳句は「季節の詩」と言われるように、四季の移り変わりと密接な関係があります。さまざまな種類の歳時記がありますから、書店や図書館などでぜひ一度ご覧になってみてください。購入する場合は、持ち運べる文庫本サイズのものを選ぶといいでしょう。
次に用意するのがメモ帳です。「句帖(くちょう)」とも呼ばれますが、メモができればノートや手帳でも十分。俳句になる材料は、いたるところにあります。散歩の途中にことばを思いついたり、病院で診察を待っている間に「これだ」と感じたりすることもあります。そこで思いついたフレーズは忘れないうちに書き留めておきましょう。その他に、電子辞書や国語辞典があれば、ことばの意味や正しい使い方を改めて確認できます。
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また、カメラ付きの携帯電話やカメラなどを持ち歩くのもおすすめです。散歩やどこかに出かけるついでに、気になったものを写真に撮っておくと、あとで俳句作りに役立ちます。被写体だけでなく、その周りにあるものなどの「構図」を意識しながら撮影しておけば、句を作りやすくなるでしょう。
俳句の題材を探しに出かける際には、目で見たものだけでなく、鳥の声や風の音、花の香り、草花や土の感触など、五感を働かせることで、詠みたい季語や題材が増えてくるはずです。
俳句の作り方のポイント
俳句は五・七・五の十七音から成り立っています。また、必ず、「季語」という季節を表すことばを入れます。
松尾芭蕉の有名な句、「古池や蛙飛びこむ水の音」を例にみていきましょう。
まずは、「ふるいけや・かわずとびこむ・みずのおと」というように、五・七・五の音数を意識しましょう。この中で、「蛙」が春の季語として用いられています。
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俳句を作る際には、「きれい」「かわいい」というような主観的なことばを交えずに、対象を表現するのがポイントです。俳句の世界では「姿先情後(しせんじょうご)」ということばがあります。これは、説明しなくても、映像や情景、姿が浮かぶように表現するという考え方で、詠み手の主観を交えないという作法です。
「古池や蛙飛びこむ水の音」には、感情を表現するようなことばが見当たりません。それにもかかわらず、蛙が飛びこむのどかさや静けさが伝わります。つまり、そこから生まれる感情は読者に委ね、詠み手の主観を表現していないのです。これを踏まえて、「きれい」を表現するのであれば、「石蕗(つわぶき)の花が日差しを浴びている」、「かわいい」を表現するのであれば、「桜の花びらが小さい」といった要領です。対象を客観的なことばでスケッチするように表現をする練習をしてみましょう。
俳句が上手に作れる? 「切れ字」とは
五・七・五の音数にうまくことばを当てはめられないという場合には、「切れ字」を用いて音を合わせる方法があります。切れ字とは、句の中で、終わり(切れ)の働きをする字やことばで、「や」「かな」「けり」などがあります。切れ字をつけることで、ただことばを並べるだけでなく、ことばとことばの響き合いが生まれるという効果があります。この切れ字を季語を組み合わせて使うことで、ぐんと俳句が作りやすくなります。
例えば、
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・詠みたい季語の音数を数える
(枯れ木(かれき)…3文字) - ・季語に合う音数の切れ字をつける(「や」「かな」「けり」)
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・かれき(3文字)+かな(2文字)
「枯れ木かな」という5文字が完成
「枯れ木かな」とする場合は、残りの句では枯れ木について触れずに、右の句のように他のことば(ケーキ屋の・看板白き)で情景を表現するという型があります。これを「取り合わせ」と言い、初心者の方でも個性的な句を作りやすい手法のひとつです。
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・詠みたい季語の音数を数える
俳句を始めるなら句会へ
俳句は絵や写真と同じように1人で楽しむことができますが、同じ趣味の人同士で集まればより楽しくなり、上達も早いでしょう。特に、自分が作った句が誰かの目に留まったり、コメントをもらったりするだけで、俳句を続けるモチベーションにもつながります。最近はテレビ番組や雑誌などでも俳句の投稿コーナーが数多くあるため、それらを利用するのもいいでしょう。また、さまざまな人たちが集まる句会に足を運ぶのもおすすめです。五・七・五の世界を通して色々な人とコミュニケーションを取ることは、日常では味わえない新鮮な面白さがあります。俳句を通して同じ趣味の仲間との出会いの楽しさを味わってください。
2018年2月掲載