2.術後補助化学療法についての患者意識調査
患者・医療従事者 - 座談会 - 2022年5月開催(愛知)
※ 所属・情報については、座談会実施時の情報です。
患者アンケート調査結果からみる術後補助化学療法に対する患者さんの思い
「今やれることはやっておきたい」
司川上:ここで、肺がんの根治手術を受けた患者さんを対象として実施したアンケート調査結果についてご紹介しながらお話を伺いたいと思います。
本調査(図2)は、岡田先生ご監修のもと実施されたということですが、肺がんの根治手術を10年以内に受けたステージⅡ~Ⅲの患者さんが術前・術後に抱く不安や心情を理解するとともに、患者さんが術後補助化学療法の実施を検討する際に重視し影響を受ける点を把握することを目的としていたということですね。
医岡田:はい。根治手術を受けた後に術後補助化学療法を実施しても再発することはありますし、一方、実施しなくても再発しないこともあります。そういう状況で患者さんは術後補助化学療法を受けたいと思うのか、治療についてどのような考えをお持ちなのか、ということを知りたいと考えて実施しました。
司川上:本調査の結果を図3・4に示します。「手術だけで治る可能性があるが、手術だけでは再発する可能性が一定の割合ある。術後補助化学療法によって、再発の割合を下げることができなくても再発の時期を年単位で遅らせる可能性がある」という前提条件のもと術後補助化学療法に対する考えについて質問しました。
図3Aの「術後補助化学療法を受けても受けなくても、再発する可能性は変わらないかもしれないが、再発を年単位で遅らせるなら今やれることはやっておきたい。再発したら自分の生活や気持ちが変わってしまう可能性があるので、再発時期を遅らせるために術後補助化学療法を受けたい」という意見、または、図3Bの「術後補助化学療法を受けても受けなくても、再発する可能性は変わらないかもしれないので、抗がん剤治療は再発してからでよいと考える。副作用の症状や強さのせいで自分の生活が変わるのは避けたい」という意見のどちらに共感するかを聞いたところ、術後補助化学療法を「受けたい」というAの考えに共感した患者さんは70%、「受けない」というBの考えに共感した患者さんは30%という結果が得られました(図3)。
これらの結果について、患者さんの立場から共感できるところはありますか。
患田丸:私は先ほど申し上げたとおり、「今やれることはやっておきたい」という気持ちで術後補助化学療法を受けたのですが、本調査の結果から、それと同じ考えに共感した方が全体の70%いらっしゃるということを実感できました。
私の周りにいる肺がんの患者さんの中には、術後補助化学療法を受けたにもかかわらず再発してしまった方もいらっしゃいますが、「やれることはやっておきたかったので後悔はしていない」といわれている方が多いという印象です。
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患松本:私にとっては本調査の前提条件である「術後補助化学療法によって、再発の割合を下げることができなくても、再発の時期を年単位で遅らせる可能性がある」ということが重要なポイントだと思っています。「“術後補助化学療法を受ける”という意見のどの部分に共感したか?」という質問において、「再発を年単位で遅らせるなら今やれることをやっておきたい」という意見に約80%の方が「非常に共感した」または「共感した」と回答していました(図4)。
再発を遅らせることができれば、その間に再発後の治療における新しい治験が開始されたり、新しい薬剤が承認される可能性もあるので、少しでも再発を遅らせる可能性があるのであれば術後補助化学療法を受けたいという考えに共感される方が多いのではないかと思いました。
司川上:医師の立場からは、本調査の結果をどのように受け止められていますか。
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医岡田:私は外科医の立場でこれまで患者さんを診てきた経験から、本調査を実施するまでは、手術で痛い・辛い思いをして、また、完全にがんは切除されたと思っている状況において、術後補助化学療法を受けたいと希望する患者さんのほうが少ないと考えていました。しかし本調査ではそれとは逆の結果で、70%の患者さんが術後補助化学療法を受けたいという考えに共感したことに驚きました。
また、先ほど松本さんがおっしゃったとおり、再発の割合を下げることはできなくても、「再発の時期を年単位で遅らせる可能性がある」ということが患者さんにとって重要なポイントであるということがよくわかりました。
医駄賀:私もこの調査結果から、術後補助化学療法を受けたいと考えている患者さんが思っていたよりも多いということ、また、再発の時期を遅らせることが患者さんにとって重要であるということを認識することができました。
司川上:手術を受けた患者さんにとっては、「再発」に対する不安というのは非常に大きいものなのですね。
患田丸:はい。これまで再発された方にお話を聞くと、最初に肺がんと診断されたときよりも、再発したことを告知されたときのほうが辛かったといわれることがとても多いですね。
司川上:本調査における患者さんの思いを受けて、先生方は日常診療にどのように生かしていくべきと考えられていますか。
医岡田:「再発までの期間」よりも「生存期間」のほうが重要だと思い込んでいる医師も多いと思いますが、患者さんにとっては再発するかどうか、また、再発の時期を遅らせることができるかどうかという点も非常に重要ということがわかりましたので、今後は術後補助療法について患者さんに説明する際には、その点も十分に踏まえたうえでお話ししないといけないと思いました。
医駄賀:「再発」というのは、やはり患者さんにとって精神的なショックが大きく、手術後や術後補助療法を受けている間でも、何か気になる症状が出たときに、「もしかしたら再発したのではないか?」と心配される患者さんはたくさんいらっしゃいます。患者さんは常に再発に対する不安を抱えながら治療を受けたり、日常生活を送っているということをしっかり理解したうえで、われわれも治療に取り組んでいく必要があるとあらためて思いました。
- ※ 「術後補助療法」とは、手術後にがんの再発予防におこなわれる治療です。術後補助療法に使用される抗がん剤が「細胞障害性抗がん剤」に分類されている薬剤の場合は、「術後補助化学療法」と呼ばれます。