放射線治療
肺以外へ照射する放射線療法
がんの痛みや、がんが気管、血管、神経などを圧迫することによって生じる症状をやわらげ、患者さんのQOL(生活の質)を維持するために、対症療法としておこなわれる放射線治療が「緩和的放射線治療」です。
肺がんは反対側の肺や脳、骨など他の部位に転移しやすいがんです。がんの進行・転移によって引き起こされる痛みや麻痺などの症状を軽減する目的で緩和的放射線治療がおこなわれます。体に負担をかけない必要最低限の放射線量を、できるだけ速やかに照射します。
照射する場所によって、頭痛や下痢、食道の炎症によるつかえや痛み、吐き気、皮膚炎などの副作用が起こることがありますが、副作用を抑える治療やケアがおこなわれます。
緩和的放射線治療の目的
部位 | 改善が期待できる症状 |
---|---|
肺 | せき、血痰、閉塞性肺炎、息苦しさ、上大静脈症候群※ |
脳転移 | 頭痛、けいれん、神経症状(吐き気、めまい、麻痺など) |
骨転移 | 骨の痛み、脊髄圧迫による麻痺、骨折の予防 |
- ※ 上大静脈症候群:肺がんの合併症のひとつ。がんによって上大静脈が圧迫されるために浮腫
参考:
・渡辺 俊一ほか:国立がん研究センターの肺がんの本.2018,小学館
・日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2022年版,金原出版株式会社
・日本放射線腫瘍学会緩和的放射線治療アドホック委員会監修「緩和的放射線療法」
・日本放射線腫瘍学会編:放射線治療計画ガイドライン2020年版, 金原出版株式会社
・佐藤奈穂子 ほか:日呼吸誌. 2012;1(5), 374-380
・谷山奈保子 ほか:北関東医学. 2010; 60(2), 105-110
脳転移に対する放射線治療
脳への転移に対して、症状をやわらげようとする目的や頭痛などの痛みを抑える目的で、放射線を照射することがあります。
全脳照射
脳全体に転移がある場合におこないます。
一般的な照射法としては、30Gyを10回に分けて照射(2週)や37.5Gyを15回に分けて照射(3週)をおこない、また40Gyを20回に分けて照射(4週)(Gyは放射線の単位で、グレイと読む)もおこなわれることがあります1)。
定位放射線照射
4個以内で直径3cm程度までの脳転移に対しておこなう方法で、がんに対しピンポイントに放射線を照射する方法です。近年のCTとコンピューター技術の進歩により10個までの脳転移におこなうことも可能となりました。
がんの進行を抑える有効性が高いため、今後さらに広まると思われますが、目に見えないごく小さい転移には効果がないというデメリットもあります。また、特別な設備が必要なため、現在のところすべての医療施設で実施できるわけではありません。
定位放射線照射
骨転移に対する放射線治療
骨への転移に対して、症状をやわらげようとする目的や痛みを抑える目的で、放射線を照射することがあります。
照射法は状況に応じていろいろで、30Gyを10回に分けて照射(2週)する方法や、20Gyを5回に分けて照射(1週)する方法、8Gyを1回で照射(1日)する方法が推奨されています1)。
- 1) 日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2022年版 金原出版株式会社
- 2) 日本放射線腫瘍学会編:放射線治療計画ガイドライン2020年版 金原出版株式会社
監修:日本医科大学 呼吸器内科
臨床教授 笠原寿郎先生
2022年12月掲載/2023年3月更新