手術療法
肺がんで手術をしない場合、する場合
手術をしないのはどのような場合?
手術をするかどうかは、肺がんの状態(組織型、がんの進行度など)と患者さんの体の状態(全身状態、心肺機能、年齢、他の病気の有無など)で決まります。
一般に、がんが限られた範囲にとどまっている場合に手術をおこないます。ただし、手術によって肺の一部や片側の肺を取り除いても以前と同じように日常生活を送ることができるかどうかなど、患者さんの体の状態も考慮します。そのため、手術や麻酔に耐えられる体力がない、呼吸機能が低下していて手術後の生活に必要な呼吸機能の回復が見込めない、他の病気により重い合併症が起こる危険性がある、手術できない場所にがんがあるなどと判断された場合は安全に取り除けるとはいえないため、他の治療法が選択されます。
非小細胞肺がんの場合
病期(ステージ)別にみると、Ⅰ~Ⅱ期(ステージ1~2)では手術が標準治療です。手術に伴う症状は緩和ケアにより改善を目指します。患者さんの体が手術に耐えられないと判断される場合や、患者さん自身の希望によっては手術ではなく、放射線治療がおこなわれる場合もあります。
Ⅲ期(ステージ3)では多くの場合、薬物療法と放射線治療を組み合わせる化学放射線療法がおこなわれますが、手術がおこなわれる場合もあります。
Ⅳ期(ステージ4)では薬物療法と緩和ケアが標準治療となります。Ⅰ~Ⅲ期の患者さんも再発のがんに対してはⅣ期と同じ治療がおこなわれることが一般的です。
小細胞肺がんの場合
小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べ、がんの進行が速く、比較的放射線治療や薬物療法が効きやすい特徴があります。そのため、標準治療として外科手術が選択されるのは限局型でリンパ節への転移がないⅠ期・ⅡA期のみに限られます。Ⅰ期・ⅡA期の手術後には薬物療法がおこなわれます。
一方、限局型のI期・ⅡA期以外と進展型小細胞肺がんでは、手術だけではがん細胞をすべて取り除くことが難しいため、手術以外の治療が選択されます。
手術をしない場合の治療方法
がんが限られた範囲にとどまっていない場合や全身状態、患者さんの希望などによって、放射線治療や薬物療法が選択されます。
肺がんで手術をする場合:手術の目的と対象
肺がん手術は、肉眼で確認できるがん細胞のすべてを取り除くことにより、治癒を目的とした治療です。
しかし、すべての肺がん患者さんが手術の対象となるわけではありません。
1.がん細胞が手術で取り除ける範囲にのみあるか
2.全身状態、年齢、合併する他の病気などから判断して、体が手術に耐えられるのか
など、さまざまな方向から検討が重ねられます。
肺がんのステージごとの手術法
肺がんのステージ別にみると、非小細胞肺がんではⅠ(ⅠA・ⅠB)・Ⅱ(ⅡA・ⅡB)・ⅢA期の一部、小細胞肺がんではI-ⅡA期の患者さんが手術の対象となり、ステージによって手術法が異なります。
非小細胞肺がん
- ・IA期:肺葉切除術または肺葉の一部を切除する縮小手術をおこない、同時に、周囲のリンパ節を一緒に摘出するリンパ節郭清(かくせい)もおこないます。
- ・IB・Ⅱ(ⅡA・ⅡB)・ⅢA期の一部:肺葉切除術または片肺のすべてを切除する肺全摘術をおこない、同時に、周囲のリンパ節を一緒に摘出するリンパ節郭清もおこないます。
- ※ 手術後に再発予防のための化学療法をおこなうことがあります。
小細胞肺がん
- ・I-ⅡA期:肺葉切除術または片肺のすべてを切除する肺全摘術をおこない、同時に、周囲のリンパ節を一緒に摘出するリンパ節郭清もおこないます。
- ※ 手術後に再発予防のための化学療法をおこなうことがあります。
参考:
・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2021年版, 金原出版株式会社
・日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2021年版, 金原出版株式会社
監修:日本医科大学 呼吸器内科
臨床教授 笠原寿郎先生
2022年12月掲載