KRAS阻害薬の働く仕組み
がんと遺伝子変異
がんは、普通の細胞の遺伝子が傷つくことで発生する、異常な細胞のかたまりです。
傷のついた遺伝子(がん遺伝子)は本来の正しい機能を果たせなくなります。異常な機能を持つタンパク質をつくりだして勝手に細胞を増殖させたり(がん遺伝子の活性化)、逆に細胞増殖を止めるためのブレーキがかからなくなったり(がん抑制遺伝子の不活化)して、がん細胞を増殖させます。
がん細胞の増殖スイッチを入れ続ける「KRAS遺伝子変異」
KRAS遺伝子はもともと正常な細胞にも存在しています。本来の役割は、細胞の外から細胞内へ信号(タンパク)を出し、細胞の増殖を調節するスイッチの機能です。正常なときは体の必要に応じてオン(活性化)・オフ(不活化)が切り替わりますが、KRAS遺伝子に変異がある場合、常時オンになってしまい、正常な細胞をがん細胞に変化させたり、がんを増殖したりします。
KRAS遺伝子変異は、非扁平上皮の非小細胞肺がんの15%にみられ、さらにその約3割(全体の4.5%)に「KRAS遺伝子G12C」と呼ばれるタンパク質の変異がみられます。特に喫煙をする人に多くみられる遺伝子変異です。
KRAS遺伝子 G12C変異がある人に効果が期待できる「KRAS阻害薬」
2022年4月以降、日本でも KRAS阻害薬が保険診療で使えるようになりました。
KRAS阻害薬(KRAS-TKI)は、KRAS遺伝子 G12C変異が陽性の場合、がん細胞の KRASG12C変異タンパク質の活性を抑えて、がん細胞の増殖を抑制することが期待されます。
肺癌診療ガイドライン(2023年版)では非小細胞肺がんのⅣ期におこなわれる二次治療において、KRAS遺伝子 G12C変異陽性であれば KRAS阻害薬単剤での治療をおこなうことを推奨しています。
- ※治療の前に遺伝子検査を受ける必要があります。
- 参考:
- ・古賀教将ほか:肺癌.2022; 62: 188-199.
- ・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版 ,金原出版株式会社
監修:日本医科大学 呼吸器内科
臨床教授 笠原寿郎先生
2024年04月掲載