RET阻害薬の働く仕組み
がんと遺伝子変異
がんは、普通の細胞の遺伝子が傷つくことで発生する、異常な細胞のかたまりです。
傷のついた遺伝子(がん遺伝子)は本来の正しい機能を果たせなくなります。異常な機能を持つタンパク質をつくりだして勝手に細胞を増殖させたり(がん遺伝子の活性化)、逆に細胞増殖を止めるためのブレーキがかからなくなったり(がん抑制遺伝子の不活化)して、がん細胞を増殖させます。
発がんの原因遺伝子として知られていた「RET融合遺伝子」
肺がんの原因となる遺伝子変異のひとつに、「RET融合遺伝子」があります。
RET融合遺伝子は1985年に発見されました。これは甲状腺がんや乳頭がんにおいて確認されており、肺がんの患者さんにおいて RET融合遺伝子が確認されたのは2012年のことです。
遺伝子融合とは、がん細胞の中で遺伝子が他の遺伝子と結合し、新たな遺伝子として変異したもので、機能の異常なタンパク質をつくりだすシグナルを出し続けて、細胞をがん化(発がん)させたり、がん細胞を増殖させたりします。
RETが融合する遺伝子の種類はさまざまで、30種類以上あります。非小細胞肺がんで多いのは「KIF5B-RET」と「CCDC6-RET」の2種で、RET融合遺伝子の約80%を占めています。
しかし、RET融合遺伝子を持つ患者さんの割合はごく少なく、全て種類を合わせても、非小細胞肺がんの1~2%です。非腺がんに比べ腺がんに多く、女性、若年の患者さん、喫煙しない人に多いことがわかっています。
RET融合遺伝子がある場合の標準治療「RET阻害薬」
先行して薬物治療が開始された甲状腺がんに続いて、2021年、肺がんでも RET融合遺伝子がある場合にがん細胞の増殖を抑制することが期待される薬剤「RET阻害薬(RET-TKI)」が使用できるようになりました。
肺癌診療ガイドライン(2023年版)では、非小細胞肺がんのⅣ期の治療において、RET融合遺伝子陽性であれば RET阻害薬の単剤療法をおこなうことが標準治療とされています。
RET融合遺伝子は、陽性となる患者さんはごく少数とはいえ、肺がんの進行にはきわめて重要なドライバー遺伝子です。2022年6月に公開された日本肺癌学会の「肺癌患者における RET融合遺伝子検査の手引き第1.0版」において、患者さんにおいて有効な治療法を選択するために、常に RET融合遺伝子が陽性となる可能性を意識し、積極的に遺伝子検査を行なうことが必要であると記載されています。
- 参考:
- ・日本肺癌学会バイオマーカー委員会編:肺癌患者における RET融合遺伝子検査の手引き第1.0版 ,2022年6月18日
- ・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版 ,金原出版株式会社
監修:日本医科大学 呼吸器内科
臨床教授 笠原寿郎先生
2024年04月掲載