MET阻害薬の働く仕組み

がんと遺伝子変異

がんは、普通の細胞の遺伝子が傷つくことで発生する、異常な細胞のかたまりです。
傷のついた遺伝子(がん遺伝子)は本来の正しい機能を果たせなくなります。異常な機能を持つタンパク質をつくりだして勝手に細胞を増殖させたり(がん遺伝子の活性化)、逆に細胞増殖を止めるためのブレーキがかからなくなったり(がん抑制遺伝子の不活化)して、がん細胞を増殖させます。

がん細胞を増殖・転移させる「MET遺伝子変異」

がん細胞の中の MET遺伝子に変異がある場合、がん細胞をどんどん分裂させ、増殖・転移させるシグナルを出してしまいます。
MET遺伝子は1980年代にはすでに発見され、現在では、肺がんのほか大腸がん、胃がん、肝がん、肉腫などさまざまながんの細胞増殖にかかわることがわかっています。肺がんとの関係については1990年代には明らかになっていたものの、治療法がなかなか見つかりませんでした。
治療薬の開発につながる大きな転機は、2006年に「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異」が報告されたことです。
MET遺伝子エクソン14スキッピング変異は、非小細胞肺がんでは最も多い「肺腺がん」の3%にみられます。性別や喫煙の有無には関係なく、高齢の患者さんに多い遺伝子変異です。

MET遺伝子エクソン14スキッピング変異がある場合に効果が期待できる「MET阻害薬」

MET遺伝子エクソン14スキッピング変異によりつくられた異常なタンパク質を抑える分子標的薬として、2019年に METチロシンキナーゼ(タンパク)阻害薬(MET阻害薬)が登場しました。
肺癌診療ガイドライン(2022年版)では、Ⅳ期の非小細胞肺がんで MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性であればMET阻害薬単剤での治療をおこなうことを推奨しています。

  • ※治療の前に遺伝子検査を受ける必要があります。
がん細胞を増殖・転移させる「MET遺伝子変異」

今後の治療薬の開発

一方、エクソン14スキッピング変異がなくても、MET遺伝子の変異によりタンパク質が過剰につくられ、がんがどんどん増幅し、治療を難しくすることがあります。その頻度は研究により幅がありますが、過剰な METタンパク質が非小細胞肺がんの5~75%でみられると報告されています。

  • 参考:
  • ・内藤智之ほか:肺癌.2021; 61: 273-281.
  • ・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版 ,金原出版株式会社

監修:日本医科大学 呼吸器内科
 臨床教授 笠原寿郎先生