扁平上皮がんとは
扁平上皮がんの概要
肺がんはがんの組織の状態(組織型)によって10種類以上に分かれていますが、発生頻度の高いものは4種類あります。最も頻度の高い「肺腺がん」に続き、「扁平上皮がん」が2番目に多く、全体の約3割を占めています。
「扁平上皮」とは、体の表面や食道など、内部が空洞になっている臓器の内側の粘膜組織を指します。扁平上皮がんは肺がんに限らず、口の中、舌、のど、食道、気管、肺、肛門、外陰部、腟、子宮頸部などにもみられます。
扁平上皮がんは、喫煙者に多い肺がんで、がんのできる場所は主に肺門部(肺門はにある太い気管支)ですが、肺野部での発生も増えてきています。
扁平上皮がんの発生しやすい場所
扁平上皮がんの自覚症状
一般に肺がんは自覚症状に乏しく、検査で発見されたときには進行していることも少なくありません。しかし、扁平上皮がんは比較的早期から咳や血痰などの自覚症状が現れやすいという特徴があります。一般のかぜにも似ているので、かぜが長引いていると思い込んだために発見が遅れることがあります。気になる症状があるときは受診を先のばしせず、まずかかりつけの医師に相談し、胸部 X線検査や喀痰細胞診を受けることをおすすめします。
扁平上皮がんが疑われる自覚症状
- ●いつまでたっても咳が続く
- ●胸の痛み
- ●喘鳴(呼吸とともに「ゼーゼー」という音が胸に響く)
- ●声がかすれる
- ●血痰が出る
- ●顔や首が腫れる
- ●食べ物や飲み物ののどの通りが悪くなる
- ※小細胞がんでも同様の自覚症状がみられます。
扁平上皮がんに特徴的な検査
喀痰細胞診
自覚症状があるときには胸部 X線検査と併せて、痰を採取して顕微鏡で細胞を調べる「喀痰細胞診」がおこなわれます。扁平上皮がんが多い肺門部は、胸部 X線検査では写りにくいという難点がありますが、がん細胞が痰の中にこぼれ落ちることで肺がんが発見できることがあります。検査のための痰は3日分採取します。
肺門部に発生するがんの多くは、扁平上皮がんをはじめ、喫煙者に多くみられるので、地域や企業のがん検診などでも喫煙者を対象に喀痰細胞診がおこなわれることがあります。
腫瘍マーカー
がんの種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質を腫瘍マーカーといいます。扁平上皮がんを調べる際に使われる腫瘍マーカーとして「SCC(扁平上皮がん関連抗原)」「CYFRA21-1(シフラ)」があります。
いずれもがんの発見よりは、がんの診断の補助や、診断後の経過や治療の効果をみるための検査です。
扁平上皮がんの治療
扁平上皮がんは非小細胞肺がんに含まれるため、大まかな治療の流れは非小細胞肺がんと同じです。
Ⅲ期の一部やⅣ期の扁平上皮がんの患者さんが薬物療法を始める際には、免疫チェックポイント阻害薬による効果を予測するため PD-L1検査をおこない、がん細胞の50%以上に PD-L1タンパクがみられるかどうかで、免疫チェックポイント阻害薬単剤か、化学療法(抗がん剤)と併用するかが選択されます。
扁平上皮がんの場合、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異以外の遺伝子変異は少なく、分子標的療法の効果についてもまだはっきりわかっていません。そのため、遺伝子検査(コンパニオン診断)の実施は標準治療にはなっていません。ただし、医師の判断で実施されることがあります。
- 参考:
- ・渡辺俊一ほか:国立がん研究センターの肺がんの本.2018,小学館
- ・日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2023年版 ,金原出版株式会社
- ・日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン2023年版 ,金原出版株式会社
- ・国立がん研究センターがん情報サービス
監修:日本医科大学 呼吸器内科
臨床教授 笠原寿郎先生
2024年04月掲載